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創業時の事業計画策定

 創業時に事業計画を立てるのは金融機関から借入れを行う必要性があるからといった理由が最も多いのではないでしょうか?

勿論、金融機関への対応も必要ですが、事業計画を立てることにより目標、資金繰りの目途をしっかり立て経営に専念していくと言った意味でも非常に重要なものと考えていただく必要があるのではないでしょうか?

創業時に立てる事業計画はいくら儲かるのかを表す損益計画とお金のやり繰りを表す資金繰り計画2つに分けて考えた方がいいでしょう

 

Ⅰ資金繰りの考え方

【運転資金】

 まず、よく耳にする運転資金とは何を意味するのか?

運転資金とは、わかりやすく言えば、商品を仕入れて販売し、現金化するまでに必要なお金です。

商品を仕入、その代金を支払いますが、その商品が販売されるまで仕入代の支払資金がありません。また販売したとしてもすぐのお金になるのでなく商品納品後一か月後といった決済条件であれば仕入代金をそれまでに支払わないといけないのであれば、仕入代金を販売代金回収前に準備しなければなりません。販売代金回収までの支払代金を賄う資金が運転資金です

この運転資金を金融機関から借りるのか、自己資金で賄うのかを検討します

【設備資金】

 事業を行っていく上で考えなければならない資金は運転資金の他に設備資金です。設備資金は例えば店舗の改装、機械装置等固定資産を購入するための資金を言います

【赤字資金】

 その他、創業してすぐに利益が出ればいいのですが、創業後当面は色々な経費がかさみ赤字になるのは多いと思います。したがって当面は赤字資金の確保も必要になってきます

 

以上、運転資金、設備資金及び赤字資金がいくら必要であるのか把握する上でも経営計画書は必要になります

 なぜなら、運転資金、設備資金、赤字資金はそれぞれ返済の財源が異なるからです。運転資金は事業を継続していく限り必要な資金であり、運転資金を金融機関から借入れる場合短期借入金の借り換えを繰り返すことにより資金繰りを安定させていきます。一方設備資金、赤字資金は、将来の儲けで返済していく借入金となります。したがって設備資金、赤字資金がいくら必要であり、事業を続けていく事によりいくらの儲けがあるから月々の返済額はいくらで何年くらいで返済する事が出来るのかを認識した上で原則、長期借入金で調達を考えていく必要があります

 上記の通り、資金繰りの計画を考えていく上でも事業計画は不可避的なものということが理解出ると思います

 

Ⅱ損益計画を作成する

損益計画を策定する上で重要な点は以下の通りです。

 

【売上高】

 売上をどう見込むかです。売上を楽観的に計画してしまうのは資金繰りを考えていく上でも健全ではありません。

売上高は保守的に見積もるのが原則です。

 大事なのは、単純に売上高○○円と考えるのではなく、具体的にどういった販売活動を行っていくのか、得意先ごとに売上計画を積み上げていくことが大事ですし、特定の取引先がない一般消費者であれば広告宣伝、販売ルートをどういった形で開拓していくかと言った具体的な行動計画も策定することにより売上計画が生きたものになります。

 開業1年目は少なく、2年目3年目徐々に売上高が増加していくと言った計画が現実的かと考えられます。

【売上総利益】

 売上総利益とはいくらで仕入、製造したものをいくらで販売し利益がいくらのなるかを表します。

例えば平均的に70円で仕入れたものを100円で販売するのであれば利益は30円で利益率30%と言うことになります。

 上記、売上計画の総額に利益率を掛けて売上総利益額を計算します。

ここでの注意点としては、価格競争が激しい業界ではあまり高い利益率を計画しても現実的でなくなりますし、取扱商品により利益率が異なる場合、販売品目ごとの売上計画を立てそれぞれの利益率で売上総利益を計算になりますが、その際当然売上総利益が高い商品を多く販売できるような販売計画がベストな販売計画になる事が分かります。

【営業利益】

 営業利益とは上記売上総利益から、販売員の給与、家賃、広告宣伝費等借入金の支払利息を除く経費を差し引いた利益です。

この営業利益から支払利息を差し引いたものが借入金の返済財源となります。したがって営業利益から支払利息を差し引いた金額がプラスでない借入金の返済が出来なくなると言う意味で非常に重要な数値になります。

Ⅲ損益計画と資金繰り計画の関係

 例えば、損益計画では1,000儲かる計画なのに資金計画ではお金が不足する計画になってしまうことがあります。

これは、冒頭の資金繰り計画のところでも触れましたが、売上金がすべて現金で回収できていない事、売れていない在庫の支払いを行っている事、設備の購入を行っている事、儲かっている以上に借入金の返済を行っている事などが1,000儲かっていても手元に同額の現金がない理由です

従って在庫、売掛金、買掛金の支払をどのように考えれば儲かっているが、お金が不足する事を回避できるのかを以下で考えていきましょう。

 

在庫(棚卸資産)の考え方

 在庫は正しく把握し決算書に反映できているでしょうか?私の経験からすれば、在庫を正確に把握している会社は皆無でした。在庫を持つことはそれだけ資金を固定させ資金繰りに大きな影響を及ぼす事を認識しておくことが必要です。

 在庫を正確に把握するメリットは次の通りです。

  • 在庫を多く持ち過ぎている事が認識できる。

  • 古い在庫をどうするかの検討ができる。

  • 在庫を無駄なく発注できる体制ができる。

  • 在庫を減らすことで倉庫料、金利等の諸経費が軽減できる。

 

 在庫が多くなっている理由は何でしょうか?業種、業態にもよりますが、売れている在庫であるが年間数個しか売れないのに数十、数百個の在庫を持っている(過剰在庫)、在庫があるのに発注をしてしまっている等、日頃の在庫管理が行われていないがため在庫をいつも多く抱えているといった事がないでしょうか?

 在庫を管理する為にやる事

  • 実地棚卸を行い在庫を正確に把握する

  • 実地棚卸後在庫で不良在庫を把握し現金化できるものは損失を出してでも資金化する事を検討する。

  • 実地棚卸のデーターを元にどの在庫がいくらあるかの情報を共有化し、在庫があるのに発注するようなことが無いよう対策を行う。

  • 過剰在庫は仕入をロット発注する為に生じることが多いが、仕入時の2個売上するために10個仕入、残り8個は販売見込みが立たない場合、2個の販売価格で10個の仕入原価を回収できる販売価格を設定する。販売価格が折り合わない場合販売自体を行わない等の対策が必要。

  • 現状の過剰在庫についての処分方針を明確に期限をもって設定する。

  • 廃棄するものは廃棄し、在庫の保管場所を整理整頓することにより在庫の保管場所の効率化、在庫に対する意識を高める。

 

以上のように在庫に対する対策を行うことにより在庫の圧縮による資金の効率化、在庫を最小限にとどめる仕入発注体制の検討を行うことにより資金効率を改善するとともに月次の損益を正確に把握する上でも在庫の状態を常に把握していくことは重要であると言えます。

売掛金の考え方

売掛金残高の未回収残高を把握していますか?

売掛金の未回収残高について回収努力が十分なされていない会社は多々見受けられます。担当者が退職したため詳細が分からない、何回請求しても支払いがないと言った理由で放置されている債権があるのはよくある話です。

相手先が破産している以外は、月々いくらかでも回収するよう得意先と交渉し、時には弁護士等専門家に委託し回収するよう話をまとめていく必要があります。

 

売掛金の回収サイトと買掛金の支払いサイトの考え方

金融機関から借入れをしなければならない1つの理由として運転資金があります。

運転資金とは、「売上債権+在庫-買掛債務」です。したがって借入金の圧縮を図るためには上述したように在庫の圧縮、売掛金の回収促進の他、売掛金の回収期間と買掛債務の支払機関とのズレの解消も検討する必要があります。

 仕入先、得意先との力関係により一概には言えませんが、少しでも売掛金の回収期間と買掛金に支払期間を合わせることにより運転資金を少なくする事が出来ます。

平たく言えば、売上金を回収してから買掛金も支払をするといった条件で取引すればいいのです。

 

Ⅳ正確な月次決算の必要性

 今まで記載した損益計画、資金繰り計画が実際その通りに行えているのか?行えていないのか?行えていないとしたら何が原因なのかをできるだけ早いタイミングで把握することが重要です。

しかし現実には正確な損益を把握できる月次決算を作成されている中小企業は極めて少ないと思われます。

  • 月次で在庫の増減を把握せずに月次決算を行っている

  • 売上と売上原価の計上が月ズレしている

  • 粉飾決算が行われている

 

正確な月次決算をすることにより昨年同月と比較して売上が増加したか?利益は増加したか?減少していればなぜ減少しているのか、その対策は?といった議論ができますが上記の様な理由で不正確な月次決算が行われるとそういった議論もできなくなり、一度正確でない月次決算をしてしまうと月次比較での業績比較が2年遅れてしまうことになります。

月次で損益状況を正しく表す事が経営上の問題点、課題を議論する上で不可欠であると言えます。

*粉飾決算を行うデメリット

粉飾決算を行う理由は様々だと思います。

しかし粉飾決算を行う事のデメリットも理解しておく必要があります。

一般的に考えられるデメリットは

  • 金融機関からの信頼性が損なわれ金融支援を受けにくくなる可能性があります。

  • 上記の様に決算書で経営上の判断が適切に行えなくなってしまいます。

  • 粉飾決算で利益を計上した場合、法人税等の税金を支払うことになり不要な資金の流出を招きます。

  • 粉飾決算を後から修正する場合、例えば在庫を過大計上した場合、過大計上した事実を証明しないと税務上修正することが困難であり多大な労力が必要になります。

  • 粉飾決算を行ったまま会社の株式を相続した場合、架空の財産を相続財産として相続税の計算が行われる可能性があります。

 

Ⅴ損益計画を有効にするために

月次損益を正確に行う事を前提にさらに経営判断に有用な情報とするためには部門別に損益を把握することが必要です。

部門別計算とは何か?

例えば

  • 小売店舗が複数ある場合、店舗ごとに儲かっているかいないかを把握する。

  • 小売、卸、通販等販売ルートが複数ある場合、販売ルートごとに儲かっているかいないかを確認する。

  • その他、複数の製商品、サービスを行っている場合、その製商品、サービス単位で採算を把握する事。

 

会社が赤字であるが、その要因がそこにあるのか?ある部門は黒字であるが、ある部門の赤字が大きいため全社で赤字となっている場合、赤字部門を中心にコスト削減、売上拡大策等の検討を行うことになるでしょうし、全部門は黒字であるが、全社コストが高いため全社で赤字となっている場合、全社コストの削減をはじめ各部門の収益性を高める方策を検討することになるでしょう。

こういった議論を行うためにも部門別損益の計算は不可避と言えます。

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